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「さうです。相談があるからと云ふんで帰つて来たんですが、僕なんか何も問題はありませんよ。返すものがあれば、いつでも返します。何もないんですよ。家と、田地が少し。それも抵当に入つていますよ。僕がしたわけぢやない。兄貴が選挙の費用だの何だので金が要つたのでせう」
すると、間もなく診察室の方から急ぎ足で出て来た房一は、道平を見るなり、
「いや、そんなこたあ、――そんなこたあしませんよ」
あの坊主は前からあんな頭をしていたのかしらん。――さう云へば、子供の時分いつしよに遊んでいるとき見たやうに思つた。――練吉はそんなことを考へていた。
「いや、どうも。恐縮です」
練吉は意外なことを耳にしたといふやうにちよつと房一を眺めたが、熱心に聞いていた。
「永いこつてすよ」――そのきつぱりとし、そのためにかへつて本当の永さを、あのつきることのない、何かしらにみちた前方の日々を現しているその云ひ方が、ひどく房一の頭に残つていた。
「さあ。どうぞ、どうぞ」
道平は顎髯を剃り落してしまつていた。
根津が箱根における化物話は、それからそれへと伝わった。本人も自慢らしく吹聴していたので、友達らは皆その話を知っていた。
この時さう云ひながら座に入つて来た者があつた。それは今泉だつた。
「なんだつて、脳溢血?――そいつあ大変だねえ」
「うん」