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と、盛子が傍から又さつきのをかしさを思ひ出したらしく、そつと注意した。
と、何か威勢よく云ひかけたときだつた。小谷は急に聞耳をたてた。小谷ばかりではない、房一も――半鐘が鳴つていた。たしかに!それは、はじめ三連打を二度ほど、ちよつと途切れ、次には聞えにくいほど鳴り、そして急に勢よくつゞけさまに鳴り出した。ちやうど、それは焔の燃える様子と緩急を合せたやうに、まざまざと目に見せるやうに響いた。
読経どきやうはまだ始まらなかつた。
「うむ」
今度は正文の方で答へなかつた。そして急に苦がい顔になつて、ぢろりと薬戸棚を見まはしただけで母屋おもやの方へ帰つて行つた。
道平は顎髯を剃り落してしまつていた。
これは怪談どころか、一種の美談であるが、その事情をなんにも知らないで、暗い風呂場で突然こんな人物に出逢っては、さすがの柳沢権太夫もぎょっとしたに相違ない。元来、温泉は病人の入浴するところで、そのなかには右のごとき畸形や異形の人もまじっていたであろうから、それを誤り伝えて種々の怪談を生み出した例も少くないであろう。
「やあ、君か」
「分家の当主は今は、若い人の代で、たしか喜作といふ筈ですが、あれも随分永いこと県外に出ているさうですな」
今泉は一寸いやな顔になりかけたが、
かりるに当って女房が挨拶に行ったら、温泉のぬるいことを例外なく念を押して、
徳次は足を踏ん張つて立ち、まだそこら中を見まはしていた。房一はちらりとその顔を見たが、黙つて片づけていた。
「一昨年の水で流れちやつたからそのまゝになつてるね――ずつと下にはあるが、さあ、そこへ廻ると半路はんみち以上ちがふかな」